「グロ注意」というか、観る人を相当選ぶ内容であろう。監督のレ・ビン・ザン(1990年生まれ)はこれが長編監督デビューだが、もともとこの作品は映画学校の卒業制作として企画されたものだったという。しかし、脚本を読んだ大学側が「あまりに残虐すぎる」と却下、それどころかザン監督は退学になってしまった。
その後、『青いパパイヤの香り』でカンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人賞)とセザール賞新人監督賞を受賞したトラン(チャン)・アン・ユン監督の後押しを得て完成し、ニューヨーク・アジアン映画祭で最優秀賞を受賞。ベトナム国内では現在に至るまで劇場公開されていないが、一部マニアに「知る人ぞ知る」作品となっていたこれが、今回、制作から8年を経て日本公開にこぎつけたのは、やはり快挙といっていいはずだ。
ベトナム・ハノイで救急車を使って人間狩りをする医師がいて、その息子は人肉中毒で、売春婦なども出てくるのだが、とにかく人間が人間を痛めつけ、襲いかかり、食いまくる。温度と湿度の異様なまでの高さが画面から伝わってくるような昼下がり、誰もが知っているであろう、あのアメリカンなファストフード店の周りで繰り広げられていた凄惨な風景……。観る人を相当選ぶ作品だが、張り付いた笑顔で360度頭を下げながら機嫌をうかがってくるような映画など観たところで何の足しにもなりゃしない。ザン監督はきわめて強い意志で、この映像世界を描き切ったのだ。
映画『Kfc』
7月20日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督・脚本:レ・ビン・ザン
製作:レ・ビン・ザン、グエン・ホアン・ディエップ
撮影:グエン・ビン・フック
編集:レ・ビン・ザン、チューン・ミン・クイ
出演:グエン・トニー、タ・クアン・チエン、ホアン・バー・ソン、チャム・プリムローズ
配給:MAP×Cinemago
2016/ ベトナム/69分
(C)Le Binh Giang / MAP×Cinemago