「刺激的で鋭い洞察力に富んだ風刺コメディ」と称賛されたブータン映画の話題作が日本上陸。『お坊さまと鉄砲』

 落語のような物語展開に親しみがわく。私はブータンに行ったことがなく、そもそも「ゾンカ語」の映画を観ること自体初めてなのだが、雄大な自然、人々の笑顔、素直そのもののセリフ(それは、相手がこなまずるければこなまずるいほど「イノセントの鋭さ」を増す)、大いに満喫した。第96回「アカデミー賞 国際長編映画賞ブータン代表作品」でショートリストに選出され、世界各国の映画祭で絶賛された作品であるという。

 ストーリーはブータンのある村で起きた実話がベースとなっているそうだ。2006年、国王の退位によって、ブータンは民主化をはかることになった。そうなると新しいリーダーを選ぶために「選挙」が必要となるわけだが、当然ながら国民には、その概念がない。そこで4日後にひとまず「模擬選挙」をやってみましょう、という流れになるのだが、どこにでもいるのがこなまずるい、民意を上から目線で操ろうとするひとたちだ。ダーティな野心満載の者がいるかと思えば、なぜかアメリカからやってきた銃のコレクターも出てきて、来たるべきセレブレイションのために必死に巨大陰茎を木彫りしている老人もいて……濃いキャラクターを持つ者が物語の途中、ある出来事をきっかけに束ねられて、そこから一気にエンディングに突入していく展開も、またいい。

 監督・脚本はブータン王室のドゥルック・トゥクセ(雷龍の心の息子)勲章の最年少受賞者であるパオ・チョニン・ドルジ。主要な役柄を演じているタンディン・ワンチュク(ロック・ミュージシャン)、ケルサン・チョジェ(元僧侶)、ハリー・アインホーン(教育者)、ペマ・ザンモ・シェルパ(歌手)はいずれもこれが俳優デビューであるとか。場数を踏んだベテランの手慣れた演技よりも、新鮮味を重視したのだろう。

映画『お坊さまと鉄砲』

12月13日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー

監督・脚本:パオ・チョニン・ドルジ
製作:ステファニー・ライ 撮影:ジグメ・テンジン
出演:タンディン・ワンチュク、ケルサン・チョジェ、タンディン・ソナム
2023年/ブータン、フランス、アメリカ、台湾/ゾンカ語、英語/112分/カラー/2.39:1/5.1ch/原題:The Monk and the Gun
字幕翻訳:川喜多綾子 字幕監修:西田文信 提供:マクザム 配給:ザジフィルムズ、マクザム 後援:在東京ブータン王国名誉総領事館 文部科学省特別選定(青年・成人向き)/ 文部科学省選定(家庭向き)
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