より良い民主主義、より尊厳ある生活、より良い教育、より良い医療制度、新しい憲法を求めて。映画『私の想う国』公開

 2019年にチリのサンティアゴで起こった民主化運動から、その2年後のガブリエル・ボリッチ大統領誕生(当時36歳の若さ)までを追った一作といえようか。民主化運動の引き金は、地下鉄料金の値上げが起きたこと。中心にいるのは若者と女性たちであろうことが映像から伝わる。カリスマ的な力を持つ特定の誰かが上から出す指示に従うわけではなく、いろんなところから集まってきた者が、その場で呼吸を合わせてデモをおこなう。

 「地下鉄の料金があがったぐらいで、何を大騒ぎを」と考えてはいけない。決して“ぐらい”とか“ひとごと”ではないことぐらい、おのれの手取り収入を見ればわかるではないか。postage、いくらあがった? そしてこのデモ、楽団も参加したりして、妙にグルーヴ感がある。とくに打楽器のアンサンブルは強力だ。怒りをただ怒っていくのではなく、「ノリの良さ」を伴いながら怒るのである。

 監督のパトリシオ・グスマンは1970年から73年にかけてピノチェト軍事政権誕生によって迫害され、国外で亡命生活を送っていた(キューバにもいた)。そうしたキャリアを持つ大ベテランが、「今のデモ」に感銘をうけ、そこに真正面から向かい合い、記録した一作。女性の力強さ、言葉の威力をも感じつつ観終え、私はチリがどんな国であるか、そして同国の民主化への歴史について調べた。ホームページには「映画を見る前に知っておきたい基礎知識」という欄もあるので、それを事前にさらっておくのも有益であると断言したい。

映画『私の想う国』

12月20日よりアップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほか全国順次公開

監督:パトリシオ・グスマン
配給:アップリンク
原題:MI PAIS IMAGINARIO/英題:My Imaginary Country/
2022 年/チリ・フランス/83 分/スペイン語 /5.1ch/1:1.85 日本語字幕:比嘉世津子
(C)Atacama Productions-ARTE France Cinema-Market Chile/2022/

公式サイト
https://www.uplink.co.jp/watashino/