人生にぶきっちょな人々、必見! 「高齢の親が中年の引きこもりを養う」現実を作品に昇華。『北浦兄弟』

 ひんやりした不気味さ、乾いたユーモアをもつ作品。腹を抱えて笑うというよりは、口の端っこ4分の1ぐらいがほころんでくるような感じ。どこまでも続いていきそうな展開を持つ話を、あえてあそこで切ってエンディングにしたのも、ひとつの鋭敏なセンスであろう。

 北浦兄弟の兄・ソウタは父親と一緒に暮らしているが、ほぼ引きこもりの状態。いっぽう、父親は元教師で人徳もあり、現在進行形の恋もしている。ある会話が火付け役となって、ふたりはとっくみあいになるのだが、息子の力の加減が悪かったのか、父親は絶命してしまう。まさか殺すとは思っていなかっただろうから、ソウタはうろたえるばかりである。だが彼には成績優秀の弟で一時期は知られたアキラがいた。長く疎遠だったが、緊急事態であるのだから、細かいことは気にしていられない。「犯罪・殺しの素人」が、必死に考えながら父の死を隠蔽しようと奮闘する慌ただしさがしっかり描かれ、そこに枝葉のようにさまざまなエピソードが垂れ下がる。そのひとつひとつがどうしようもなく人間臭いし、「引きこもりの兄と少年時代に成績優秀で評判だった弟」という、見かけに関しても相当に異なる兄弟の、「それでもやっぱり似ている思考」が徐々にうかびあがっていく過程も心憎い。手塚みのる扮する「自転車に乗る男」役の、なんとスパイスの利いていることか。

 中野マサアキ、大塚ヒロタがダブル主演。父親には、たかお鷹が扮した。監督・脚本・編集:辻野正樹。世界15大映画祭の一つであるエストニア「タリン・ブラックナイト映画祭2024」でクリティック・ピックス・コンペ部門「最優秀作品賞」を受賞。

映画『北浦兄弟』

4月12日から東京渋谷ユーロスペースで公開

監督・脚本・編集:辻野正樹 プロデューサー:辻野正樹 / 中野マサアキ プロデュース協力:飯塚冬酒 撮影:吉沢和晃| 音楽:桜井芳樹| 助監督:松岡寛| 録音:百瀬賢一 / koty / 寺内丈| 制作:川岸陵| ヘアメイク・特殊メイク:ayadonald| 衣装プラン:松本人美| 現場衣装:西山咲子| 小道具:中野マサアキ| 水彩画協力:関口アナン| グレーディング:松岡寛| 合成:内田剛史| 整音:東凌太郎| 効果:浦川みさき| フォーリー:岡部泰輝| スタジオ技術:森史夏| DCP作成:原みさほ / 菅原彩花| スタジオ営業:岩丸恒| 撮影助手:呉大雅俊 / 伊藤悠馬| ヘアメイク応援:齊下幹| 企画協力:岩田和浩 配給:ガチンコ・フィルム
(C)「北浦兄弟」製作委員会

公式サイト
https://g-film.net/kitaura/