東京国際映画祭の上映時、「涙が止まらない」との声も。ある教師の少年時代の記憶を辿る一作、『年少日記』

 教育の現場は難しい。子供たちは当然ながら子供であり、教師たちは成人だ。成人にとっては既に通ってきた道であっても、子供たちにとっては初めて通る道であり、時にそれは命を懸けた大冒険となる。といってもこの映画は「子供と大人」の話ではない。主人公のチェンは高校の教師だ。つまり「大人への脱皮をはかろうとしている若者と、成人の話」だ。年齢もさほど離れていない。が、その「さほど」が断層を生む。この年頃と教師の関係は、非常にセンシティヴである。

 チェンは生徒の「遺書」を発見する。その中には、「私はどうでもいい存在だ」という語句があった。チェンにとってこの言葉は他人のそれではなかった。なぜなら彼も自分のことをそう思ったことがあるし、日記に書いてもいるからだ。チェンは過去の日記をめくりながら、自分の歴史をゆっくりとふりかえっていく。父は弁護士、家庭は厳格。だが、そこにはひとつの優生主義というべきものが存在した。成績の良い弟は大いにかわいがられ、評価され、誇りとされ、そうでもない兄は一家の恥とばかりにけなされ、邪魔者扱いされ、怒鳴られ、殴られ、むごいほど弟と比較されていく。チェンがどちらに相当するかはぜひ映画をご覧いただきたいと思うが、我々はチェンの「内省」に立ち会いつつ、生徒の無事と、教育という概念、競争社会について思いをはせることになる。

 ニック・チェクの監督デビュー作で、第60回金馬奨では観客賞と最優秀新人監督賞、第17回アジア・フィルム・アワードでは最優秀新人監督賞を受賞した。出演はロー・ジャンイップ、ロナルド・チェン、ショーン・ウォンほか。

映画『年少日記』

6月6日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
監督:ニック・チェク
キャスト:ロー・ジャンイップ、ロナルド・チェン、ショーン・ウォン
2023年|香港|広東語|95分|ユニビジウム|5.1ch|原題:年少日記|英題:TIME STILL TURNS THE PAGES|字幕翻訳:小木曽三希子|配給:クロックワークス|映倫:PG12
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公式サイト
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