終戦80年に関連し、古典的な2作品が4K版として8月1日から全国順次ロードショーされる。

『ジョニーは戦場へ行った』はダルトン・トランボが原作・脚本・監督を務めたアメリカ映画。トランボは『ローマの休日』『黒い牡牛』『スパルタカス』などの脚本を担当した偉才だが、レッドパージの被害者でもある。物語のベースとなっている文章は1939年、つまり日米開戦の2年前には書かれていたらしい。そしてその中に登場する元青年兵士は、第一次世界大戦時に目、鼻、口、耳を失い、運び込まれた病院で両腕、両脚も切断されている。「そんな風になっても、どこまで生きるのか」的な、なんというか人体実験のような感じで施設に「飼われている」。自力で移動することも何もできないが、ただ、頭脳としゃべる機能は失われておらず、基本的に、「407号」と呼ばれるこの元青年兵士のモノローグによって映画中の物語が進む。その口調は文学的でもあり、抽象的でもあり、なんというか観る者の「相当ハイブラウな知性」に訴えるところがあるし、米国の戦争史に精通しているわけではなく英語ネイティヴでもない自分がそれをどこまで理解できているかは心もとない。
この映画が公開されたのは71年だが、70年には制作を始めていたとしたら、カンボジアやラオスへの戦線拡大なども制作陣は知っていたはずで、この抑えに抑えた中から憤怒がにじみ出るような映画の調子は、かつてレッドパージで人生を台無しにされたトランボにとって命がけのステートメントだったのだろう。それにしても劇中で引用される「国のために死ぬことは甘美で名誉である」という言葉は、すごい。
タイトルは、志願兵募集の宣伝文句“Johnny Get Your Gun”に基づくという。ということは、あのミュージカル『アニーよ銃をとれ(Annie get your gun)』も、この文句に由来するということか。『ジョニーは戦場へ行った』は第24回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリほか三冠に輝き、日本でも1972年度芸術祭大賞を受賞した。
『野火』は作家・大岡昇平がフィリピン・レイテ島における自身の戦争体験を基にした作品(1951年発表、第3回読売文学賞・小説賞を受賞)。これを市川崑が監督し、彼の妻である和田夏十が脚本を書いた。この大監督は某女優の自伝などから察するに男の風上にも置けないような「人でなし」なのだが、映画を撮るということに関してはまったく素晴らしく美しい。主演は船越英二なのだが、「どこに船越英二が?」と思われる方も続出するかもしれない。やせこけた、すすけた、ギラギラした、まばたきをするのも面倒なのではないかと思えるほど放心ぎみで、なにがなにやらわからないところをずっとさまよっているような、画面の大半に出ずっぱりの男が船越英二だ。彼はこの映画の役作りのために体調を崩すほどの厳しさを課したという。
この映画の公開は1959年、つまり敗戦から14年しか経っていない。ちなみに、今から14年前といえば大震災の頃である。そんな「近い距離」にあった時代、戦争体験者たちが、身を振り絞るようにして問うた一作がこれなのだ。究極の飢餓と孤独にさいなまれたとき、人間はタガが外れる。なお、この映画は第14回ロカルノ国際映画祭グランプリ、ハンブルグ映画祭優秀映画賞、バンクーバー国際映画祭カナダ映画協会賞など国際的にも高く評価されている。
●終戦80年企画
映画『ジョニーは戦場へ行った』4K
8月1日より角川シネマ有楽町ほか全国順次公開
配給:KADOKAWA
(C)ALEXIA TRUST COMPANY LTD.
映画『野火』4K
8月1日より角川シネマ有楽町ほか全国順次公開
配給:KADOKAWA
(C)KADOKAWA 1959