フランス流の愛のかたちを堪能あれ。セルジュ・ゲンズブールの『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』が、4K完全無修正版で上映

 もう亡くなってそんなに経つとは、時の流れの速さに驚くばかりだ。八面六臂の鬼才、セルジュ・ゲンズブールの没後30年を記念して、いわくつきの監督・脚本・音楽・脚本・音楽担当映画『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』(1976年公開)が4K完全無修正版という形で5月29日(金)から新宿K’s cinemaほかで全国順次公開される。撮影監督はウィリー・プラント。

 ぼくがこのフランス語(あなたのことを愛しているわ… 俺は君を愛してないぜ)を知ったのは1990年代半ば、いわゆる渋谷系の流れを通じて、ゲンズブールとジェーン・バーキンが声で絡み合う同曲に触れたのがきっかけだ。その後、もともとこの曲がブリジット・バルドーのために書かれたものであること(一時期ゲンズブールと不倫関係にあった)などを知った。

 が、映画を見るのは初めてだ。エロいという評判だけは伝わっていたが、個人的には、むしろ落語に通じる諧謔を覚えた(“声”のために何度も追い出されるところなど)。犬の“ナナ”もすごくいい表情をしている。いろんなユーモアがねじれたりゆがんだりしながら、いろんな箇所に盛り込まれている感じだ。物語の舞台はアメリカの田舎。いわゆるアメリカン・ニュー・シネマに通じるムードを感じることもたやすいだろう。

 ヒロインに扮するジェーン・バーキンの超ショート・ヘアは、当時としてはものすごくショッキングだったのではないかと思う。この時期すでに英国の音楽家ジョン・バリー(『007』シリーズの音楽を担当、その前はジャズ・トランぺッター)と結婚し一児をもうけて離婚していたそうだが、彼女は68年にゲンズブールと出会い、ご存じの通りパートナーとなる(入籍はしなかったときく)。

 さらに個人的に目玉が飛び出るほど驚いたのがジミー・“ラヴァー・マン”・デイヴィスの登場だ。彼はもともとソングライターで、その名が示す通り「ラヴァー・マン」という曲を書いてアメリカン・ポピュラー・ソング史に永遠に名を残す。ビリー・ホリデイ、チャーリー・パーカー、ソニー・ロリンズ、ビル・エヴァンス、最近ではノラ・ジョーンズもとりあげているナンバーだ。1942年にNAACP(全米黒人地位向上協会)の会員となったが、47年にフランスに拠点を移し、イヴ・モンタンやモーリス・シュヴァリエにも曲を書いた。この映画には、そのジミーが、人種偏見に満ちたセリフを浴びるシーンがある。ジミーがこれを引き受けた背景を知りたくなってくる。

 後半、頭の中がジミー・デイヴィスでいっぱいになってしまったのだが、バーキン、その恋人役(といっていいだろう)のジョー・ダレッサンドロなどなど、いろんな登場人物の、それぞれの視点に立って見れば、見るほどに違う面白さが増す作品なのではないかと思った。とにかくこれをスクリーンで見ることができるのは喜びだ。

映画『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ 4K完全無修正版』

5月29日(土)から新宿K’s cinemaほか全国公開

監督・音楽:セルジュ・ゲンズブール
出演:ジェーン・バーキン、ジョー・ダレッサンドロ、ユーグ・ケステル、ジェラール・ドパルデュ―、ミシェル・ブランほか
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル
原題:Je t’aime moi non plus/フランス/1975→2019/90分/カラー/フランス語/R18+/日本語字幕:寺尾次郎
http://www.cetera.co.jp/jetaime4K/