「まったく爽やかではないボサノヴァ」というしかないサイケデリックでアヴァンギャルドな音楽が不気味な光を放ち、「より効率よく鶏肉を得るために」頭がなく骨も極度に少ないフリークスな生き物が作られる場面に恐怖を覚え、最終的には「よくこんな筋書きを考えて、ダイナミックな映画にまとめあげたものだ」と驚きが止まらない。実に、観る者を忙しくさせる映画である。
舞台となるのは、3 万羽のニワトリを飼育するローマ郊外の巨大養鶏場。とりわけ味の濃い登場人物は、マルコ(養鶏場の社長で政財界とのつながりもあり)、その妻アンナ(養鶏場を実質的に仕切っている)、アンナの姪ガブリ(まだ10代)の3人といっていい。
マルコはアンナに飽き飽きしていて、ガブリと愛人関係にあった。アンナはそれを知らない。しかもマルコは時おりモーテルに娼婦を呼び出して、その娼婦をナイフで刺して快感を得る男でもあった。つまり彼はサディストで性欲の塊だったわけだ。
そして彼は「ブラック」という黒い犬を大切にしていた。この犬が養鶏場の給餌機に落っこちて、ローラーでズタズタにされてしまう。ああかわいそう、と思うと同時に、「アンナもこうなっちまえばいい。鶏のエサにもなるし」と思うのがマルコのすさまじいところだ。
このマルコを演じたのは、去る6月に亡くなったジャン=ルイ・トランティニャン。アンナ役は、これも有名なジーナ・ロロブリジーダ。以上フランス美男、イタリア美女に対し、ガブリ役にはスウェーデン出身のエヴァ・オーリンが抜擢された。良いルックス、邪悪な生活、ポップな画面が奇妙なコントラストを描く。
監督・脚本ジュリオ・クエスティ、12月2日から新宿シネマカリテほか全国順次公開。
映画『殺しを呼ぶ卵【最長版】』
12月2日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、ジーナ・ロロブリジーダ、エヴァ・オーリン、ジャン・ソビエスキー、レナート・ロマーノ
監督:ジュリオ・クエスティ 脚本:フランコ・アルカッリ、ジュリオ・クエスティ 撮影:ダリオ・ディ・パルマ 美術:セルジオ・カネヴァリ 編集:フランコ・アルカッリ 音楽:ブルーノ・マデルナ ●キングレコード提供 ●アンプラグド配給
1968年|イタリア=フランス合作|105分|ビスタ|モノラル|原題:LA MORTE HA FATTO L’UOVO|R12+
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