謂れのない罪で旧ソ連から母国に戻れなかった日本人がいた。「発見」をもたらす2作品が上映

 映画を観る醍醐味のひとつに「学び」がある。観た後、観る前より知識の厚みが増していることに気づいたときの、なんというのだろう、達成感は一度体験するとクセになる。

 この2作品の主人公である阿彦哲郎、三浦正雄の両氏を、私は映画に出会うまで存じ上げていなかった。そして観終えて、つらさ、やるせなさ、切なさ、憤怒、などさまざまな気持ちに見舞われ、「知ることができて良かった」と心から思った。勇気と信念を貫くひとの歩みは、とかく弛緩しがちなこちらの心に冷水を浴びせてくれるのだ。

 『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』(監督:佐野伸寿、エルダル・カバーロフ、アリヤ・ウバリジャノバ/脚本:佐野伸寿)はカザフスタンと日本の合作映画。太平洋戦争末期、日ソ中立条約を破棄してソ連が攻め込んできた(樺太侵攻)。北海道にどうにか到着できた者もいたし、逃げる途中で絶命した者もいる。阿彦哲郎は樺太に残るが、1948年にテロリストの疑いがかけられ、ソ連政治犯強制収容所にたった1人の日本人として放り込まれる。ほとんどの他者が彼にした、あまりにもひどい行いの背後には、日本への反感や人種差別もあったはずだ。スターリンの死後、恩赦ということなのか釈放されたものの、日本に戻ることはかなわず、永久流刑にさせられた。彼がようやく再び母国の土を踏んだのは、ソ連崩壊から3年を経た1994年のことである。阿彦役には、キックボクサーの小笠原瑛作が扮する。

 『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』(監督・脚本・製作総指揮:佐野伸寿/カザフスタン側監督:エルラン・ヌルムハムベトフ)は、カザフスタン・日本・キルギスの合作。こちらの画面は白黒を基調としている。三浦正雄は北海道に疎開していたが、敗戦直後、樺太に家族を探しに行ったところを逮捕され、14歳でカザフスタン(日本から8000kmも離れている)へ流刑に処された。彼は計53年間、カザフスタンで生活したが、この映画では子供時代のことを中心に描かれている。主演は佐野史将。

特集上映『シベリアからカザフスタンへ民間人抑留者の記録・2作品同時公開!』

12月22日(金)よりUPLINK 吉祥寺 ほか全国順次ロードショー

映画『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』
出演:小笠原瑛作、スルム・カシュカバエフ、アサナリ・アシモフ、佐野史将、かざり
監督:佐野伸寿、エルダル・カバーロフ、アリヤ・ウバリジャノバ 脚本:佐野伸寿 撮影:サマト・シャリポフ 美術:ヌルブラト・ジャバコフ 写真:松元隼人 製作企画:カザフスタン共和国文化省、日本カザフスタン国交樹立30周年記念作品 製作:ボリス・チェルダバエフ、アリヤ・ウバリジャノバ、吉村秀一、佐野伸寿 後援:文化庁文化芸術振興補助金(国際共同制作映画) 配給:Studio-D JAPAN 配給協力:UPLINK
2022年/カザフスタン・日本/112分/1.85:1/カラー/DCP/G
(C)МИНИСТЕРСТВО КУЛЬТУРЫ И СПОРТА РЕСПУБЛИКИ КАЗАХСТАН

映画『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』
出演:アクタン・アリム・クバト、サマル・イスリャモヴァ、ダレジャン・ウミルバエフ、佐野史将、小笠原瑛作、三浦ニーナ
監督・脚本・製作総指揮:佐野伸寿 カザフスタン側監督:エルラン・ヌルムハムベトフ 撮影監督:ムラト・ヌグマノフ 音声監督:アンドレイ・ウラズネフ 写真:松元隼人 製作総指揮:Studio-D 日本側製作:蒼龍舎 カザフスタン側製作:Film Film Film 後援:AFF2、文化庁 配給:Studio-DJAPAN 配給協力:UPLINK
2023年/カザフスタン・日本・キルギス/110分/1.85:1/白黒・カラー/DCP/G
(C)Studio-D

公式サイト
https://ahiko-samurai.com/