昨年秋、全国の映画館で特集上映「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」が行われた。フランスを代表する名優はスクリーン越しに、痛快なアクションと粋なセリフ回しの数々で、コロナ禍で沈んだ毎日を送る我々映画ファンの気持ちを、ひとときかもしれないが確実に吹き飛ばした。
この「傑作選」は、ベルモンドと同じ時代を過ごした中高年層を映画館に呼び戻し、さらに、これまで彼を知らなかった次世代にも大きくアピール。映画会社が驚くほどのヒットになるとともに、続編を求める声も高まり、昨年11月20日から3週間、東京はじめ「傑作選」上映中の名古屋・関西の4劇場にて「次に観たいベルモンド出演作」を募る“ベルモンド映画総選挙”が実施された。
5月14日(金)から始まる「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」は、その結果を充分に反映させたセレクション。HDリマスターによって色合いはもちろん音質も鮮度抜群、サウンドトラックの楽器の音色のみならず、爆発音、エンジン音なども息をのむ迫力だ。前回の「傑作選」ではチェット・ベイカー、ラリー・コリエル、ロン・カーターらがサントラに参加した『警部』が上映されたが、今回のセレクションも音楽ファンを充分に楽しませるに違いない。
『リオの男』は1964年のイタリア・フランス合作映画(フィリップ・ド・ブロカ監督)。ベルモンドはフランス空軍のパイロットに扮し、謎のグループに誘拐された恋人アニエス(フランソワーズ・ドルレアック)を追いかけて、一緒の飛行機に乗ると、着いた先はリオデジャネイロだった。いきなりブラジルに来てしまった戸惑いと、想像もしなかった風景や人との出会いから受ける刺激等が、劇中で巧みに活写される。画面は実に色合い豊か、テンポの良いストーリー展開、工事現場でのアクション、村と大都会の対比、太陽に照らされた波の美しさ、盗まれた土蔵の“土偶”ぶりなど、みとれてしまうところ多し。ボサ・ノヴァ・ブームはある程度は来ていたはずだが、サントラのベーシックな音作りはサンバである。なんと57年ぶりの日本劇場公開。
『カトマンズの男』は1965年のイタリア・フランス合作映画(フィリップ・ド・ブロカ監督)。『リオ』の姉妹編というわけではないが、同様にゴージャスな海外ロケ、しかも今回は香港、インド、ネパール、マレーシアにまで足を運ぶ。ベルモンドが扮するのは、膨大な遺産を相続し、腐るほどの富を手にしている男。しかしちっとも満足できず毎日が退屈で、自殺したい気持ちは高まるばかり。なのだがどうしてもうまくいかない。外国なら死ねると思ったのか世界一周の船旅に出ることにし、同時に、とある男のアドバイスで多額の生命保険をかける。最初こそいつ死んでもいい気持ちだったが、やがて、昼は科学者・夜はストリッパーの顔を持つ美女と出会い、恋におちて……さあ、この先どうなるか。
音楽はジョルジュ・ドルリューが担当。インドの楽団も出てくるが、シタールのジャラーン、タンプーラのミョーン、タブラのポコポコが重なった、あの、ビートルズを通じて世界に広まったインド・サウンドではない。ちなみにビートルズのジョージ・ハリスンが初めてインド音楽を意識したのは65年4月らしい。55年ぶりの日本劇場公開。
『相続人』は1973年のイタリア・フランス合作映画(フィリップ・ラプロ監督)。ここでのベルモンドは、飛行機事故の犠牲になった父の息子という役どころ。その父は新聞社と鉄鋼会社を経営する巨大企業集団のボスで、息子はそのアメリカ支社の代表であったが、父の死を受けて急遽フランスに戻ることになった。普通に考えれば彼(息子)が父の莫大な遺産と権力を受け継ぐわけだが、それをよしと思わないのが父の近くで働いていた連中だ。さらに息子は新聞社をはじめとする巨大企業を自らのプランで刷新する。当然、恨みを買い、いっぽうでグループ乗っ取りに動く勢力も現れた。父は殺されたのではないか? 疑問、陰謀を息子は自らの新聞で暴露すべく動き出す。ジャズ・フュージョン色豊かな音楽は、ハービー・ハンコックやジャコ・パストリアスとの作品づくりでも知られるミシェル・コロンビエが担当。48年ぶりの日本劇場公開。
『エースの中のエース』は1976年のフランス・西ドイツ合作映画(ジェラール・ウーリー監督)。1936年のベルリン・オリンピックを舞台にした物語で、ベルモンドはボクシングのフランス代表チームの指導者(その前はフランス空軍の戦闘機パイロットだった)に扮する。ユダヤ人少年との物語が軸となっていて、暖かな心の通い合いが描かれるとともに、ナチズム五輪に熱狂する大衆、権力を縦に横暴の限りをつくすナチスの警察官たちの姿、ドイツ=フランス=オーストリアの緊迫も描写されている。ギュンター・マイスナー(生涯、4作品でヒトラーを演じた)はヒトラーと、その姉の二役で登場。“熊”もいい味を出している。日本ではかつてVHSで出たきり、つまり今回が国内劇場初公開である。音楽はウラディミール・コスマ(「枯葉」の作者、ジョセフ・コスマの息子)。
『アマゾンの男』は2000年のフランス・スペイン合作映画(フィリップ・ド・ブロカ監督)。フィリップとベルモンドは、この作品で約25年ぶりにタッグを組んだ。公開当時、ベルモンドは67歳。レス・イズ・モア的な動きと演技になっているが、それが天文学者に扮するアリエル・ドンバールの若さと活気を引き立てる。個人的には、カフェのシーンにCDラジカセが置いてあるところに、「制作当時の現代性」を感じた。謎の少女役のティルダ・バレも快演する、肩の凝らないファンタジー・コメディである。音楽はアレクサンドル・デスプラ。今回が特別プレミア上映となる。
特集上映『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2』
5月14日(金)より新宿武蔵野館にて待望のロードショー
提供:キングレコード
配給・宣伝:エデン