スペインを代表する若手女優・モデルのエステル・エクスポシトが渾身の演技。犯罪組織の魔の手から逃れられるのか……。『VENUS/ヴィーナス』

 ホラー+ミステリー+サスペンスのスリリングな盛り合わせといった感じだ。一部で熱狂的に支持される怪奇作家、H・P・ラヴクラフトの1933年作品「魔女屋敷で見た夢」を原案にした1作であるという。“一筋縄ではいかない”という言葉がまことにふさわしい展開で、惜しげもなく噴き出る血(しかも黒みを帯びているように私には見えた)、相当にグロテスクな描写もある。スペイン語の響きは実に明瞭、言語の特性上か大きく口をあけてきっちり発音するので、そこが「物語のひんやりした怖さ」に「シャキッとした成分」を加味しているようにも感じられたのだが、これはスペイン語を母国語としない自分であるからこそ、そういう印象を抱いたのかもしれない。

 NETFLIXのドラマ「エリート」シリーズで知られるエステル・エクスポシトが、ナイトクラブで働くダンサーの役で主演。目を大きく開き、血を流し、錯乱するさまをカメラはヴィヴィッドに追う。いかにもいかがわしいクラブで、雇い主は犯罪組織だった。そこから大量のドラッグを盗んで逃亡してしまうのだから彼女も命知らずだ。結果として追われることになるのだが、ひとまず姉と姪が棲む古びたアパートに隠れることには成功する。ここから作品はさらに深化して、姉は消え……。「日食」というファクターがここまで効果的に使われている映画も私は初めて観た。

 監督は『REC/レック』シリーズのジャウマ・バラゲロ、製作はアレックス・デ・ラ・イグレシア。2022年のトロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門選出作品。

映画『VENUS/ヴィーナス』

5月9日(金)新宿シネマカリテほか全国ロードショー

監督:ジャウマ・バラゲロ
脚本:ジャウマ・バラゲロ、フェルナンド・ナバーロ
製作:アレックス・デ・ラ・イグレシア
音楽:バネッサ・ガルデ
撮影:パブロ・ロッソ
原案:H・P・ラヴクラフト「魔女屋敷で見た夢」(「アウトサイダー―クトゥルー神話傑作選―」所収/新潮社刊)
出演:エステル・エクスポシト、イネス・フェルナンデス、アンヘラ・クレモンテ、マグイ・ミラ、フェルナンド・バルディビエルソ
2022年/スペイン/スペイン語/カラー/シネスコ/5.1ch/101分
原題:VENUS 字幕翻訳:金関いな/R15+ 配給:クロックワークス
(C) 2022 Pokeepsie Films SL – The Fear Collection II A.I.E.

公式サイト
https://klockworx.com/movies/venus/