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原田和典

  • 2023年12月10日

父を失い、パリに到着した17歳の少年が感じたものとは……。クリストフ・オノレ監督の自叙伝的一作『Winter boy』

 『愛のうた、パリ』、『愛のあしあと』等で知られる映画監督・作家のクリストフ・オノレ(1970年生まれ)の、半ば自叙伝的な一作。ストーリーの随所で、主人公・リュカのモノローグが挿入される。  オノレは15歳の時に父親を亡くしたそうだが、この映画の主人公であるリュカは17歳の時に父親を事故で失った。葬 […]

  • 2023年12月8日

夢と現実が入り混じった先にあるものとは……。高野徹監督の初長編作品『マリの話』

 『ハッピーアワー』、『偶然と想像』など濱口竜介監督作品で助監督を務め、短編映画『二十代の夏』はフランス・ベルフォール国際映画祭のグランプリ&観客賞を受賞。注目を集める高野徹の初長編監督作品が12月8日からシモキタ – エキマエ – シネマ「K2」にて上映される。  内容は全 […]

  • 2023年12月8日

目を背けてはいけない、誰もが通る道なのだ。「病」「死」「老い」に迫るギャスパー・ノエ監督の最新作『VORTEX ヴォルテックス』

 ギャスパー・ノエ監督の最新作は、リヴィング・レジェンド級のふたり、ダリオ・アルジェント(どちらかというと監督として著名か。なんと今回が初主演だという)とフランソワーズ・ルブランの共演作品。老夫婦がいかに生涯を終えてゆくかを、約150分にわたって描いた一作だ。映画評論家の夫は重い心臓病を抱えており、 […]

  • 2023年12月1日

リーアム・ニーソン出演101本目となる作品。金融ビジネスマン一家に突如訪れた恐怖を描く『バッド・デイ・ドライブ』

 『シンドラーのリスト』や『96時間』シリーズで知られるベテラン、リーアム・ニーソンの映画出演101本目となる作品。私など彼の名を聴くと途端に「超人」というフレーズが浮かんでくるのだが、今回は妻、ふたりの子供と暮らすビジネスマン・マットを演じる。金融の仕事がハードなのだろう、いささか家族をなおざりに […]

  • 2023年11月30日

香港映画界の才人たちが趣向をこらした、三部構成のサスペンス・ホラー『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』

 「世にも奇妙な物語」のファンなら、飛びつくように画面を見ながら、ひとつひとつの「あやしいシーン」を脳に刻みこんで、巧妙なトリックに酔いつつ、しっかりと怖がるに違いない。サスペンス・ホラーなのに、どこか小気味よい。それもこのオムニバス作品の魅力であろう。香港の映画はスケール感が豊かだなあ、と強く感じ […]

  • 2023年11月29日

もし、あなたの愛する人が「惑星難民」だとしたら? 話題の小説が実写映画化『隣人X -疑惑の彼女-』

 現代日本の合わせ鏡に出くわしたような思いで、約2時間、観入った。原作は第14回小説現代長編新人賞に輝いたパリュスあや子・著「隣人X」。12月1日より新宿ピカデリー他で全国ロードショーされる『隣人X -疑惑の彼女-』は、この社会派小説を原作とする映画だ。  “X”とは、紛争のため故郷を追われた惑星難 […]

  • 2023年11月24日

ある「親子のかたち」を、8年間の撮影を通じて描き出す。『マイ・ファミリー~自閉症の僕のひとり立ち』

 不勉強にして「自閉症」についての知識がおぼつかなかった。外の世界と交流せず、自分の世界に引きこもっている人のことだと思っていた。  違うのだ。それだけでこの映画は私にとって知となった。このドキュメンタリー作品の中心人物であるケース・モンマ(42歳)は年老いた両親と一緒に暮らしている。非常に丁寧でキ […]

  • 2023年11月24日

ベンソン&ムーアヘッドの黄金コンビが、ロサンゼルスの湿り気を画面から放つ。『サムシング・イン・ザ・ダート』公開

 私がロサンゼルスに行った経験のあるひとから聞く感想は、「気候のあたたかさ」「太陽の輝き」「陽気な音楽」だったりするのだが、この映画で描かれているのはミステリアスな、いつまでも晴れない霧のような、しめっぽく、暗い、ロサンゼルスの姿だ。  物語は基本的に、老朽化の進むアパートに住むふたりの男、リーヴァ […]

  • 2023年11月17日

PHANTOM(幽霊)の正体を突き止めろ! 日本支配体制時代を舞台としたスパイ・アクション『PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ』

 舞台は1933年の京城(ソウル)。ご存じかと思うが1910年から45年まで朝鮮半島は大日本帝国に支配されていた。「京城」と名付けたのも日本側の意志だ。臣民として生き、日本語を覚え、しゃべり、日本人と同化することを考えていたひとも、それだけはいやだと自身のルーツに忠実にあろうとしたひともいた。その「 […]

  • 2023年11月10日

「罪という字を消して勇気と書く。愛という字を消して君と書く……」。全身全霊の愛とは何か、観る者に問う『蟻の王』

 1960年代の実話、いわゆる“ブライバンティ事件”に基づく映画だ。  イタリアのピアチェンツァに住む主人公のアルドは詩人で劇作家、蟻の生態研究者。見識に富む、ひじょうに知的な人物だ。だが彼は同性愛者であるがゆえに、カトリックとマルキシズムの国では、とんでもない無法者とみなされる。やがて生徒のエット […]